シャワー室から出てきた月がバスタオルを腰に巻きながら、ベッドへ近づく。シャワーを浴びたばかりだというのに、月の手足はすっかり冷え切っていた。緊張しているのか、月自身よくわからなかった。
部屋の直接光はすべて消灯し、ベッド下にある間接照明だけが弱くぼんやりと部屋の空間を照らしあげて、特有の雰囲気を醸していた。既にシャワーを終えていた魅上はさっと腰かけていたベッドから立ち上がり、その芳体を強く抱きしめた。自身の心臓の音が、この部屋全体に大きく響いているような錯覚を起こした。魅上は月の腰に手をあて、バスタオルをゆっくりと外す。月はぎこちない表情を浮かべていた。互いに裸のまま抱き合うと、もう後に引けないと月は腹を括るような気持ちになった。一度、シャワーの時間で間が空いたというのに、魅上の下半身は既に半勃ち状態だった。抱き合った拍子、月の手の温度が肌に触れた魅上は「冷たいですね」と小声で発したが、特段気にしていないようだった。魅上は、月の背中へ両腕をまわし、力いっぱい抱きしめながら、再び深いキスをする。今度は自然と舌を絡ませ合っていた。月自身の舌では決して触れられない場所へ、魅上は舌を伸ばす。ぴくぴくと月の顔が反応し、紅潮する様を感じ、魅上は自身の身体中の細胞が火照っているような異常な昂奮に包まれて、胸が激しく波立つ感覚を味わっていた。
再びすっかり直立した魅上の男性器の先端が、密着する月の臍あたりへつんつんと当たるものだから、月の腹周りを先走りで濡らしあげていた。月はそれをなんとなく身体で感じてはいたが、目線を下にさげ、肉眼で確認する勇気はなかった。
ほどなく抱き合いを解放させた魅上は、半歩ほど下がってから、自身の体液でてらてらと光る月の腹の表面を手のひらで拭った。
「申し訳ありません……」
魅上はそう言いながら跪き、今度は月の腹周りへ矢継ぎ早にキスを降らせた。くすぐったいような、心地いいような、ふしぎな感覚が月に訪れる。腹の上の方、臍周り、腹の下の方、あらゆるところへ穏やかな口づけを与えたあと、魅上は月の陰部をじっと見つめた。
「……あんまり見るなよ……」
興味深そうに観察され、居心地が悪くなった月は冷静を保とうと懸命に、最大限感情を抑えた声で言った。
「ああ、すみません……神は、ペニスの色や形まで美しいのだなと、感心してしまいました。清澄な感じすらします」
魅上の直接的な物言いに、月の上半身にかっと血が上った。なんだか唐突に甚大な恥ずかしさが、いやにリアルな感触を伴って月の全身を煽った。わなわなと腕や顔の筋肉がふるえだしたのがわかった。月は思わず顔を伏せ、左の二の腕あたりで顔を覆ってから、歯を食いしばった。
「おまえ、嫌がらせだろ……っ」
今からでも、殴りつけてやろうかと思った。
「まさか」
魅上は至極真面目にそう言い放ったあと、ベッドに腰かけるよう促した。月は促されるまま、ベッドに腰をしずめる。疎ましい気持ちに苛まれながら、月は魅上のようすを窺っていると、魅上は床に膝をつけたまま、月の足の間に入り込み、その陰部を手に持った。そして、なんの躊躇もなく、魅上は月の裏筋へ舌を這わせる。根元から先端まで何度か舌を這わせた後、次は根元まで口全体で銜え込みながら、更に口内の舌で裏筋を舐めまわす。平気で同性のものを銜えた魅上の姿に驚いて、月は快楽より前に身体をびくつかせた。『これ、こんなこと、僕もあとでこいつにしなきゃならないのか……?』月は憂いに満ちた表情を浮かべ、すっかり困惑していた。女性のものよりも肉厚で大きい舌に絡めとられる下腹部へ、慣れない感覚というよりも、はじめての感覚が突き抜けてゆく。
ふと、魅上の顔を見つめると、魅上はずっと月のことを射るような目線で見つめていた。ぞくりと背筋に悪寒のようなものが走る。『こいつ、僕の反応を見ている……』月はそう直感し、意地でも反応するかと目線を少し左の方へ逸らした。段々と甘く疼く感覚が下腹部に集まってきたが、月は息を押し殺し、沈黙する。そんな月の様子に構わず、魅上は口淫し続けた。
「……こう反応があると、やりがいがありますね」
いつの間にか勃起していた月の陰部について、魅上がそうつぶやいた。瞬間的に、月の心臓がきゅっと縮こまり、恥辱感に顔を充血させる。その言葉から受けた羞恥を搔き消すように、月が憎さげに言葉を繋ぐ。
「おまえ、抵抗ないのか……」
「神相手に私が何を嫌がることがあるのでしょう」
月は再び黙り込んだ。そんな彼の姿を記憶し、後でそれを分析、究明する学者みたいにじっと見つめながら、魅上は月への口淫を再開させる。頬を窄め、口の中でじゅるじゅると音を立てながら全体を吸い上げたあと、形好い月の亀頭へ集中的に舌を絡める。根元の方へ手淫を加えながら、先っぽをきつく吸い上げると、じわじわと月が焦ったような顔を見せた。
「あっ、ちょ、出…っ、出そう、待、魅上……!」
そんな月のようすを瞬きすらせず注意深いまなざしで見つめながら、魅上は吸茎を続け、むしろ根元を強く扱きはじめた。自分の意見に耳を貸さない態度の魅上を見て、己を射精させる気なのだと月は理解し、ぶわっと刺すような汗が吹き出た。意志に反し、射出欲が高まる。
「っ……!」
月は切羽詰まった表情を浮かべながら手のひらで口元を覆い、息をひそめた。直後、びくっびくっとその細い腰が脈を打つ。魅上はためらわず、その精液を嚥下した。射精後の倦怠感の中で、月は魅上の精飲する姿に衝撃を受け、同時に心底気味悪く思った。
「いかがでしたか、神」
こんな状況で感想まで聞いて来るのだから、月は当惑した。
「いかがって……」
「今、探り探りなんです。うまく出来ているか……この日の為にずっと同性間での性交方法を調べていたのです。暗記は得意ですので現状問題ないと踏んでいますが……神から見て、いかがでしたか? 何かご意思があれば、是非、声を」
月は唖然としながら、魅上の話を聞いていた。要するに、悦かったか悦くなかったかを調査しているらしかった。気だるげな意識になっている月にとって、魅上のここでの変な忠誠ぶりも鬱陶しいだけだった。そして、一点気になることがあった。
「この日の為にずっと調べていたって、どういう」
「横浜の倉庫で神を拝謁した日から、ずっと調べて来たということです」
「…………」
「弥の存在を聞かされなければ、ずっと秘めるつもりでした。しかし、弥が神にどのように扱われているかを知ってしまっては、話が違うでしょう」
YB倉庫ではじめて月の姿を見た日からこうなる可能性を考えていた、という話を臆面もなくされ、月はこれまで魅上とキラ世界についてのやり取り、メールや電話、今回のように二人きりで話し合いをしてきた経験を走馬灯のように思い起こし、当時の自分が今まで魅上からどのように見られていたのかを想像してしまい、一度にどっと記憶が塗替えられるような、精神的打撃のような言いようのない羞恥と嫌悪が全身の皮膚に拡がった。そして、月が誰とも親密な関係を築いていなければ、魅上はこの行為を求めることはなかった、墓場に持っていくつもりだった、というようなことを示唆した。しかし、キラ崇拝者の中でミサだけが特別な思いをするならば、その話は変わってくる。それならば自分も特別な関係になりたい、と魅上なりの理屈があるようだった。つまるところ、夜神月という存在が、誰のものにもならないでほしかったのだろう。
「特に指示や言葉がないのであれば、神が射精に至ったことから、喜悦を感じたと判断します」
月は何か言い出すべき言葉を口の中で探していたが、何を答えたところで『結局こいつに辱めを与えられた気持ちにさせられる』と感じていた。魅上はずっと自分を侮辱する目的で動いているのではないかと錯覚するほどだった。月の胸のあたりに苛々と強い疼きが上って来る。
それで、と言いながらふいに魅上が立ち上がった。
「神……私のものも舐めていただけますか」
月はここではじめて、ようやく魅上の怒張した男性器を見た。明らかに自分のものより大きく、太く猛々しくそびえるそれが、びくんびくんと脈打ち、いやに雄々しい印象を与えた。月自身のものだって成人男性の中では平均以上のサイズがあったが、魅上の男性器はそれよりも二回り以上大きかった。月は縛られたように身動きが出来なくなり、目線が外せなかった。月の硬直する様を魅上は上からじっと、鋭い眼つきを離さず凝視していた。
やがて、月が確認するような声で魅上へ声をかけた。
「これで、おまえが出したら、もう終わりでいいのか?」
「そんなわけないでしょう、これは前戯ですよ」
魅上はビジネスの場のようにぴしゃりと言い放った。その言説は、月へ心臓がねじれるような苦痛を与えた。嫌悪で引き攣りあがった頬肉が、月の目を細く歪める。
一言も発しなくなった月の頭頂部から後頭部にかけてのラインを魅上の両手が掴んだ。ぐっと月に緊張が走ったのを魅上は気色取りながら、閉じられたままの唇へ怒張した先端を押しつけた。大きなカリ首が月の唇と擦れて、くちゅ、という音を鳴らす。月は歯を食いしばっていた。括ったはずの腹が、ふっ、ふっ、と短い呼吸とともに断続的に揺れ、何か泣き出しそうな気持ちになった。
「神……きちんと、対等に、扱ってください……」
魅上は昂奮を帯びた声で、言い聞かせるみたいに訴える。『あなたにはその責任がおありでしょう』とでも言いたげな、どこか語気鋭い物言いであった。月は次第に観念したのか、桜唇をうすく開き、雄臭く張り出した亀頭を舌先でちろっ、と舐めあげた。それだけで、魅上の先端から先走りがこぷりと溢れ出て、月の唇を穢した。『気持ち悪い……』先走り特有の塩味を感じ、月はまさしく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。厳密にいえば、味自体はさして男も女も変わらないような気がしたが、魅上のものを押しつけられているこの状態が、月のなかでプライドを踏みにじられている苛立ちとなり、それが一層特別な不快感を煽った。不満げにちろちろと舌先だけで控えめな奉仕をしながら、時が過ぎるのを待っていた。そんな月のその場しのぎの態度をわかってか、魅上は月を苛烈に見据え、頭部を覆っていた指頭へ力を籠めた。
「いつも、女たちに……そのような奉仕精神なのですか」
『あなたのそのやり方で、関係を持った女たちを満足させることができていたのですか?』魅上の言葉の節々から、暗にそのような指摘を受けたと感じ、月は屈辱感でかっとなった。
実際、セックス自体に興味がなかったし、相手女性を愛したこともなかったから、奉仕精神なんてものは存在し得なかった。月の中にあるのは、ただ漠然と人類や世界を愛し、奉仕したい気持ちだけだった。故に、目の前にいる個人を愛したり、奉仕したりすることは考えられず、それはこれからもあり得ないことだった。しかし、だからと言って「自分本位で雑なセックスをする男」だと、女たちに評価づけられるのは癪だったから、月なりに技術を磨き、女性たちを確かに満足させていたはずだという自負があった。
その自負心を、今し方、魅上の言葉で嬲られた。『くそっ、馬鹿にするなよ』導火線に火がついたみたいに冷静さが欠け、月は魅上の男性器を頬張った。あまりの質量に、口がいっぱいいっぱいになっていたが、月は魅上の陰茎の半分くらいまでしか銜え込むことができなかった。だから根元の方へ届かない分は手で補おうと、そっと手を添えようとしたが、魅上はそれを制止させた。
「口だけで、してみてください……」
手を一切使わずに口淫することを希望され、月は無言のまま、銜え込んだ状態で前後に動いたり吸引したりした。魅上が何故そのようなことを希望するのかはよくわからなかったが、手を使わない分、舌や口、首、頭全体の動きだけで男性器へ刺激を与えなければならないのだなと、どこをどうすればよいかは月にはなんとなく勘でわかった。絶えず溢れる先走りの風味が口内で充満し、不快だった。
「か、神……どうか、こちらに目線を」
いつの間にか集中して魅上の竿ばかりを伏し目がちに見ていたらしい月へ、魅上は声をかけた。その言葉に月は反射的に目線をあげると、魅上は目を爛々とさせながら月の顔へ焦点をぎゅっとしぼり込んでいるかのように見つめていた。『ああ、美しい!』月と目が合った瞬間、魅上の視覚的な昂奮はこれ以上ないくらいに高まっていた。また、同時に言いようのない多幸感に包まれた。対して月は、ただでさえしたことがない男性器への愛撫という行為に戸惑っているというのに、さらに『手を使わず舐めろ』だの『こっちを見て舐めろ』だの、面倒な注文をしてくる男だと感じて、魅上のものを銜えながら睨みつける。魅上の怒張した太い血管が、大きく脈打ってふるえていた。『このまま射精してしまいたい……っ』魅上はそのような欲求で頭がいっぱいになったが、しばらくして息を荒げながらずるっと月の口腔から男性器を抜き取った。はあはあと荒くなった呼吸を整える。月は軽くなった自身の口元をさっと指先でぬぐい、同時に、大きく口を開けていたせいで痛くなった下顎の部分を心配した。改めて眼前に出てきた魅上の男性器を見て『よくこんな大きなもの半分と言えど銜えられたな……』と、月は何とも言えないグロテスクな恐怖を感じた。細身な女性の腕くらいの太さはあるのではないかと思うほどだった。
「神、寝台に……」
魅上の黒目の動かし方で横になるよう示唆されたのが理解でき、月はベッド上へ仰向けに寝転がった。「失礼します」と言いながら魅上がゆっくりと月の上へ覆い被さり、キスをする。幾度か舌を絡ませ合いながら、その流れのまま、魅上は月の身体を丁重に撫でさすった。次に、月の乳首を指でつまみ、くりくりと弄って刺激を与える。女みたいな扱いをされ、月はどういう顔をすればよいかわからなさげに眉を少し下げていた。臆する風もなく、魅上は月の乳首へ舌を這わせ、もう片方の乳首へは継続して指先での刺激を与え続けた。ぺろぺろと乳首のぷっくりしたところを舐めながら月の方を見やると、月の喉が緊張と困惑で鳴った。『なんでいちいち観察してくるんだ……』月は魅上の視線を至近距離で受けながら、気恥ずかしさを覚えた。
月の反応の感じから、ここで性感を得たことはなさそうだと魅上は理解した。だからこそ、もう少し様子を窺いながら試みようと判断し、舌先で転がすようにしたり、乳輪から吸い上げたりした。
「いかがですか……何か、思うところは」
「別に……悦くないよ……男だし……」
最小限の言葉で、ぶっきらぼうに月が言った。魅上はそうですか、とだけ短く返事し、委細構わず月の胸部への愛撫を継続した。『訊いておいてなんだよこいつ……』月はそんな魅上の態度にもやもやした気分になった。20分ほど、しつこくねぶり上げてゆくうちに、段々と月の表情が心地よさそうなリラックスしているような、とろんとした目つきになっているのが微細ながら見て取れた。恐らく、これは月本人もわかっていないだろうと魅上は感じながら、乳輪全体を銜え込んで、ちゅうちゅうと音を立ててから口を窄めてその乳首を吸い上げた。月が息を吞んで、少し静まり返った。ゆるやかな段階をへて、もぞもぞとした態度を取りはじめる月の身体の動きを見、徐々に刺激が性感へと転じられてゆく様を確信した。追い立てるように、魅上は胸部への愛撫を繰り返す。しばらくして月の背が弓なりに反りはじめ、魅上はその隙を見逃さず、シーツと浮いた腰の間にできた空間へ腕を回しては、月の上半身を抱き上げるようにした。
「ぅ、わっ……!」
月は上半身を起こされたが、反り返った身体の重心は後ろへ向かっていたため、両腕が背の後ろに回った形でシーツに手をついていた。その為、自然と魅上へ向かって胸を張っているような、胸を突き出しているような体勢になった。魅上は月の肩甲骨あたりを抱き留めながら、月の胸の先端をひたすらねっとりと犯した。
「〰〰ん、ん、んっ……!」
唇を結んだまま、鼻の奥へ引っかける声音だけで、月が切なげな啼き声をあげた。なにか、脳内に溢れ出す快楽物質のような感覚に思わず月は魅上の二の腕を掴みかかり、身体を引き離そうという素振りを見せていた。魅上はそんな月の動きに微動だにせず、くにくにと乳首へ舌を絡ませて弄り続けた。我慢できなさげに月は天井を見上げながら、足をぴんと伸ばし切り、びくびくと小さく身体をふるわせ、はあっ、はあっ、とどこか陶然とした深い呼吸をする。いつの間にか、月の手足の冷えはなくなっていた。『なんだ……今の……』月ははじめて感じる、ふわふわとした脳髄の感覚に、とても思考の整理が追いつかなくなっていた。射精ほど強くはない、しかし心地好い感覚よりはなにか強い、別種の快感が確かにあった。同時に、連鎖昂奮でどこか下半身の奥底にも快感状態が連動しているような、ふしぎな感覚も味わっていた。外面的には取り繕っているが、明らかに胸中では落ち着きを失っている月の有り様は、魅上の奥深くにある昏い雄の情欲の部分を勲章のようにくすぐった。
呆然とする月を再びベッド上へ寝かし、その太ももの裏側へ魅上は両手を差し込んで、すらりと長い両足を持ち上げた。臀部がシーツから浮き上がり、尻穴までもがまる見えとなる格好に、月は小さく拒絶の声をあげていた。肉体の何もかもをこの男に晒している、という思いが強くなって、斯様な声をあげたのだろう。内心、魅上は脂下がるような気持ちがこみ上げたが、顔に出すことはしなかった。
「今更、恥じ入ることはないでしょう」
そうは言っても恥ずかしく思う月の表情は、怜悧で厳格さをまとった普段の神の姿に比べ、どこかあどけないギャップを感じさせ、魅上にとって非常に好ましいものであった。返事に詰まる月の尻むたを押し広げ、その窄まった穴を食い入るように眺める。呼応するように、ひくっとその肉皺の部分が緊張を見せたが、淫猥という感じではなく、むしろ可憐な印象を受けた。この秘部は月が誰にも触れさせたことがない箇所だと思うと、魅上の中へ一層昂る気持ちが生じた。どこを見られているか月は痛いほどわかり、そこへ灼けつくように帯びた熱が身体中に拡がってゆく。そんなところを見るな、と叫び出したかったものの、そんな取り乱した様を見せるのも嫌で、なんとか平静を保つよう努めた。
「神のお身体は、本当に……どこも好い、美しいですね……あなたにふさわしい……」
魅上は独りごちるようなトーンで言った。はじめて神を感じたときの感応的な熱情にも似ている、芯が疼くような感覚を抱いていた。
「……魅上……」
嫌悪を含んだ声で名を呼び、反感をにじませた表情で暗に魅上へ制止を仄めかす。月にはそれが精いっぱいであった。月のその胸中を魅上は何もかもはっきりと察していたが、霊感が突き動くままにその穴へ舌を這わせた。ひっ、と月は顔面を蒼白させたかと思えば、次には紅潮する、そんなせわしない動きを見せていた。
「み、魅上――……」
「おわかりになっていますか、神の使う性器はこちらです」
しゃべりながら、魅上は月の穴を舌全体ですくい上げるように撫であげ出す。月は魅上の言葉にも行動にも、なにか知的恫喝を受けたような衝撃を喰らい狼狽した。魅上は音を立てながら、これまでで一番、卑猥な動きで丹念に舌を上下左右させる。両手の親指で双臀の谷間を大きくくつろげ、穴の中へ舌を突き入れると、月が目を丸く見開いてシーツを固く握り締めた。
「あ、あっ…」
水溜りを撫でるような音が部屋の中に響く。人生においてはじめて味わわされる舌戯に、奇妙な感覚、脳髄のどこかの器官が司る部分が、直接小突かれているかのような錯覚が月の中に起きていた。舌に犯される、というのは、人間というよりも何か別の生き物に犯されている感覚をもたらした。このような感覚を抵抗なく与える魅上に対して、月は怖気が走った。
魅上はちゅ、と舌を離すと骨張った中指を月の穴の入り口に添わせ、少しずつ沈めてゆく。時間をかけながら指の関節をゆっくりと差し込んでゆき、ついに中指の根本までを押し入れた。
「いかがですか、わかりますか……?」
指を差し入れたことについて、今どう思うのかを魅上は月に問うが、月はもはやこの次の段階の想像で頭がいっぱいに支配され、未知の恐怖が押し寄せており、それどころではなかった。魅上も特に意に介さないようで、指を慎重な力加減で、月の内襞を探るように動かす。恐らく、丹念な愛撫によって今のところ痛みはないのだろうと、魅上は腸壁の動きや湿度を感じ取りながら判断した。しばらくして、中指に続き、人差し指もうずめてゆく。う、う、と月の食いしばった歯の隙間から、苦悶をにじませたような小声が漏れていた。二本の指に月の中が慣れたようになると、次は薬指も根元まで沈める。ふ、ふ、と月は目を固く瞑りながら天を仰いでいた。
ずくずくとうずめた指全体で月の体内を撫でつけていると、月の足の根がぶるぶるとふるえはじめ、そんな筋肉の動きに連動して、月の腸壁の襞はなにか魅上の指を誘い込むようなうねり方をしはじめていた。ゆっくりと、確実に、月の中は己を迎え入れる準備が整ってきているようで、魅上は熱狂的な感動を覚えた。
「入れます」
随分と月の中が柔らかくなりはじめたところで、魅上は指を退きそう宣言した。月を愛撫してる間中もずっと勃起させていた竿をもたげ、ぴとっ、とその亀頭を月の入り口へ押し宛てる。瞬間、月は唐突に死刑宣告でもされたかのような絶望をにじませた表情をうかべ、待て、とうろたえはじめた。これまでの魅上による愛撫だけですっかり疲弊し、どこか消耗しきっていたように気の抜けていた月だったが、自身の危機感からか、その目には焦りをにじませた鋭い眼光を走らせていた。冷静に考えても、冷静に考えなくとも、魅上の肉棒は自身の身体が受け入れられる質量ではないと、月は直感していた。
「入るわけない、無理、無理だ……」
『もうここまででいいだろう!?』月はそう思った。だが魅上にとってはこれまでは前戯で、これからが本番なのだとも同時に理解していた。月のその理解通り、魅上は月の声を無視して押し入ろうとする。
「やめろ!」
月の中で急激に、これまで経験したことのない恐怖感が高ぶった。
「多少ご無理させてしまうことになりますが……破瓜という行為の前にはこれは神に我慢していただくしかありません……」
申し訳なさげに眉を下げながらも、魅上は強い姿勢で、尻を掴む両手の親指で月の穴を横に拡げながら、その間を埋めるように入り口を亀頭の先で拡張しようとする。
「ぅ、あ、痛……!」
月からは結合しようとする部分は見えないが、少し押し込められるだけでも、入り口の大きさと魅上の亀頭の大きさがまるで違うだろうと理解できた。こんなものが入るわけがないと思った。対して魅上は、先ほどから神は己を迎え入れる準備が整っているから、この行為には問題がない、とそのような第六感の予感に突き動かされる心持であった。
「雁首さえ入れば、あとは問題ないはずなんです」
ぐ、ぐ、と、ゆっくり、遠慮がちなのか無遠慮なのか、魅上は月を貫こうとする。
「ふざけるな! 僕の身体が壊れていいのかっ……!?」
月は焦りを欠片も隠そうとしなくなっていた。何故、魅上が諦めようと微塵もしないのか、本当に畏れと苛立ちで気が狂いそうになった。
「最大限配慮しますが……ここは神の我慢する部分です……」
めきめき、と身体が鳴った気がした。月は我を忘れて泣き叫びだした。
「あ゙っ、あ、あぁっ……! や…いやだ、やめ……」
「お気持ちは理解しますが――……一瞬間耐え抜いてください」
魅上は業突張りになって、強引な力で行使してその亀頭で月の穴を押し広げてゆく。わずかに、亀頭の先端が月の穴へ入ってゆく。いける、と霊性を伴った確信を魅上は得た。めりめりと身体が破壊される恐怖に月は総毛立たせた。徐々にインクの色が染みるみたいに穴が拡張されてゆき、カリ首の高いところが入り口部分に引っ掛かっていた。このままこの状態で止まっていても、互いに苦しい思いをするだけだ。魅上はそう判断し、覚悟を決めたように月の腰を力の限り掴み、固定した。
「無体な行いをお許しください」
そう言って、力尽くで一気に凶器を突き押した。
「ぅあ゙ア゙ァあ゙あッ……!!!」
月の絶叫が部屋中に響いた。声をあげようなどと思わなくても、勝手に、身体の反応として声が押し出されていた。ぞりぞりぞりっ、と魅上の張り出したカリ首が月の腸壁を擦り上げながら、あっという間に下部陰茎までがその体内に押し入った。ぱんぱんに拡張され、肉皺が伸びきった月のアヌスを見つめ、その禁断の部分を剥きだしにしている感覚に魅上は狂喜した。次いで、入りましたよ、と魅上はなにか達成感を味わった嬉しそうな口調で月に語りかけるが、月は全身をふるわせ、唇をわななかせながら呼吸をするので精いっぱいというような様相だった。
「は、っ、あ……ア゙っ……」
月は目の前がちかちかしていた。身体が引き裂かれたと思った。壊れたとも思った。あんなものが入ったなんて、信じられなかった。あまりの圧迫感に、嘔吐しそうな感覚がせり上がる。
魅上はしばらく月の中で居坐っていると、その中の襞が先刻、己の指を誘い込むようなうねり方をしたときと同じ動きで、この肉棒を包み込み、締めつけるような感覚で中へ中へと導いていることを理解した。『……! やはり神の身体は私を待っていた……!』そのような天啓が魅上を貫き、その恍惚感に甘い電流を疼つかせ、思わず月の唇を奪った。口を開け互いの舌を絡め合う。べろべろと口腔でも性交を行いながら、魅上は下半身の律動も開始した。
「ふっ、あ゙、あ、が……!」
舌を絡ませ合いながら、口を開けたまま、突かれて漏れる月の声は呼気まじりだった。魅上は顔を離し、次は月の上半身を力強く抱き締めながら、繰り返し突き上げる。
「ああ、神っ……!」
「あ゙あ゙、ぅ、ぐっ、う、ううっ……!」
待望していた神との交感に、魅上の狂気が募ってゆく。ごっ、ごっ、と腰を揺さぶり立てるたびに、月は腹から押し出されたような、獣じみた声をあげた。これは性交ではなく、物理的な破壊行為だと思った。
「かはっ……!」
魅上のものを奥底へ押し込められるたびに、みぞおちでも殴られているような暴力的な苦しみを感じた。揺さぶられるたびに、いつの間にか月の目には涙がこぼれていた。魅上のカリ高な肉棒は、月の腸壁へえぐるような刺激を与えた。ぐちゃぐちゃと、身体の中が爛れてゆくようであった。まともに話す力も、体力も、気力も奪われてゆく。
熱で浮かされたように連続で腰骨をぶつけながら、その一方で魅上は月の様子を冷静に分析するような目でも見ていた。
何度も角度を変えながら前進していると、奥底の或る秘められた部分へ魅上の先端が触れた拍子、呼吸を止めたように月がはっと驚いて、そして突かれるたびに漏らしていた苦しげな声のトーンが、妙な色を帯びる、そんな様子が見て取れた。『ここか』魅上はすぐさま狙い打つように、そこだけを亀頭部でぐりぐりと圧迫させた。月は自身の身体に何が起こっているか理解していないのか、全身を赤く火照らせながら、さっと不安げな顔を浮かべた。それは確実に動揺を物語っていた。
そして、月は何かよくわかっていないままに「やめろ」といやがるような声をあげたが、その体内は悦びを表すようなうねり方をしていたので、魅上は雄としての興が湧いた。
「神。お好きですか、ここ」
魅上の声には明確に愉悦が混じっており、彼の能力面での自信家な気質が色濃く顔を覗かせていた。話しながらぐっ、と再度その一点を押し上げる。瞬間的に息を呑み、呼吸を止めてしまった月の返答を待つより早く、さらに言葉を連ねる。
「好きなんですよね? 私のものを、こんなに中へ呼び入れて……」
言いながら、ずるっ、と魅上は己のものを限界まで引き抜き、また奥の部分へ一気に送り込み、的確に月の或る部分だけを攻めていた。月は胸から上の部分を真っ赤に紅潮させながら、懸命に歯を食いしばる。何とか声を出さぬように、と耐えているみたいだった。
「はあーっ、はあー……っ…………黙れ、いい加減にしろ……!」
月は苦しげに呼吸を整えながら、耳まで赤くなった顔で涙目になって言った。肉体的にも精神的にも嬲られている感覚を絶えず与えつづけられ、月は魅上をなにか根源的に許せない気持ちになった。
そんな月の顔があまりにも可愛いものだったから、魅上は思わずくつくつと不遜な感じでくぐもった笑い声をあげてしまった。月は魅上のそんな姿を理解不能と言いたげな目で見やっていた。魅上は一点を目がけて中を捩じ回すように、ぐりぐりと腰を動かす。すると、ふいに月の脳から爪先まで痺れたような感覚が走り、思わず小さな声をあげていた。それは狂いなく悦がり声だとうかがい知れたので、魅上は何度もそこを攻めた。
「ふっ、う、ぃ……や……いやだ……!」
「胸中は察してます……」
月の陰部から先走りの汁がこぼれていた。魅上はその様を見て「こちらでも気持ち好くなっておられるのですか?」と、月を厳しく見据えながら囁いた。しかし、月にはあくまで体内の奥の方で性感を感じさせることを目的としているのか、魅上は月の持ち上がった陰茎に手をかけることはせず、しきりに一点ばかりへ腰を進め、ぐ、ぐうっと強く押し続けていた。
「ひ、ひっ…ひぃっ……!」
月はもはや逃げ出したい気持ちだった。しかし、魅上の妙に強い力に抑え込まれ、抜け出すことはできなかった。
「あなたにこんな悦びを与えられるのは私だけでしょう……!? 神……!」
『そうであると認めろ』魅上は強圧を加えるように、月の動きを抑えつけながら活塞を激しくさせた。その激しい動きや、これまで得たことのない刺激に、月の身体全身ががくがくとふるえた。苦しいのか快いのか混乱し、正常な感覚がわからなくなって来る。
「神! 私じゃなければ、届かないですよ。こんなところ……!」
突然、魅上は狂乱したように、自身を誇るような口ぶりで月の奥を攻め立てた。確かに月の悦がるそこは、人間の指などではけして届かぬ、奥深くのところに存していた。互いの性感が急激に膨らんでゆくのがわかった。粘膜の擦れ合いにまともな思考能力が削がれてゆく。バイオロジカルを超越したような、何者か欣快なものに吸い込まれてゆくような恍惚とした気持ちが魅上の脊髄を貫いた。ためらうようだった月の身体も、やがて内奥から押し寄せて来る深い歓びをあらわにし、その性感が最高点に達したようだった。月の体内が、魅上の肉棒を締めつける。
「んっ、ん、――…ッ……!」
「ああ、神を感じる……っ!」
主客の境を超えた、神秘的な忘我状態が二人を支配し、何度目かわからない口づけを交わした。